ついにマルサが動いた!サラリーマンの副業にメス

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サラリーマンの副業についにメスが入った。2月15日、「脱税指南」をした男が逮捕された。東京国税局査察部(通称:マルサ)の狙いはどこにあるのか。マルサに17年の勤務経験を持ち、週刊ダイヤモンド2月23日号「相続・贈与・節税完全ガイド」で税務調査の裏側を披露した、元国税調査官で税理士の上田二郎氏が緊急解説する。

2月15日、ある重要なニュースが報じられた。新聞やテレビで見た方もいるかもしれない。国税当局が絡むニュースは、関係者や税理士でなければ見逃してしまうような小さな記事が多い。だが、もしあなたがサラリーマンで、副業を考えているならば、必ず把握しておくべきニュースなのだ。

各社の報道によると、事件の概要は次の通りだ。

東京地検特捜部は15日、所得税法違反容疑で、コンサルタント会社「グローバルワークス」(東京都新宿区)代表の男(34)を逮捕した。男は2010年7月~12年4月、顧客の会社員ら数十人に、副業で事業損失が出たという虚偽の確定申告をさせ、計約2500万円の所得税を不正還付させた疑い。

事件を簡単に解説しよう。サラリーマンに副業をさせたことにして、副業の部分は赤字にする。この赤字を給与の収入と相殺させることで、源泉徴収された所得税を不正に取り返させたのだ。男は顧客のサラリーマンからコンサル料をもらっていたのだろう。

今回の東京地検特捜部の逮捕の影には、マルサがいる。通常の場合、億を超える金額の脱税でないと逮捕には至らない(そもそもマルサが動かない)。今回、逮捕にまで踏み切ったのは、事件の悪質性に加えて、国税当局がサラリーマンに広がった脱税に対して警鐘を鳴らしているようにも受け止められる。

ニュースの中心は脱税を指南した男の逮捕だ。だが、忘れてはならないのは、偽りの確定申告書を提出した、顧客のサラリーマンたちの存在である。大型脱税事件を手がけるマルサが、サラリーマンを直接調査することは滅多にない。今回のケースでは当然、強制調査で自宅などを洗いざらい調べ上げているはずだ。

マルサがサラリーマンの副業にメスを入れたことは、今後は当然、税務署も重点的にチェックしていくという決意の現れだ。

今回、マルサのターゲットになった、サラリーマンの副業についてインターネットで検索すると、多くの書き込みがあふれている。もちろんすべてが悪質というわけではないが、なかには疑問に思える記載も数多く存在している。

副業についての具体的な手引きは、調べるとすぐに見つかる。例えば、音楽CDや同人誌を製作して販売する手法だ。翻訳業やコンサルタント業は仕入れや在庫が発生しないため有利という記載もある。また、年間の収入金額は重要でないと書いているものもある。

今回の事件で逮捕された男は、ホームページ上で「無駄なお金の最たるものが『払う必要のない税金』です」「法律として決められた手順に従い『還付申告』の手続きをすれば、あなたには払いすぎた分の税金が戻ってきます」などとうたっていた。

だが、こうした記述を鵜呑みにすると、落とし穴にはまる。

税務署に事業と認められるには事業にふさわしい規模の売上が必要だ。また、継続性も重要な要素で、少なくとも数年間は継続し相応の売上と利益を得ることが必要だ。毎年、赤字になっているようでは、一般的には事業の継続は困難だからだ。

通常、税務署は「開業届」の提出を受ければ、確定申告の時期に申告書を郵送する。まず、税務署が申告書を送ってきたからといって、事業として認めてもらえたと思い込むことは大きな勘違いだ。
確定申告書を提出する際に決算書を添付するが、ここでも注意点はいくつかある。なんでも理由をつければ経費になるなどと記載している本もあるが、これは大きな誤りだ。事業に関連しない経費は当然のことながら否認される。

私が税務署時代に調査したある事件のサラリーマンの必要経費には、同僚との飲み会の領収書やマクドナルドのレシート、さらにコンビニの弁当代、果ては夕食の買い物と思われるスーパーマーケットのレシートも入っていた。当然、厳しく問いただす羽目になった。

いざ税務調査になって、一つ一つの領収書を吟味された場合、本当に税法で定められた費用に該当するのか。確定申告の前に胸に手を当てて考えてほしい。

また、経費の申告のうち、最も額の大きいものは自宅の事務所代金だ。なかには家賃の30%程度を経費として申告してくるケースもある。もちろん、事務所の使用割合に応じて経費に算入する考え方もあることはある。しかし、サラリーマンの副業の場合、事実認定を積み上げてもせいぜい数%で、それほど大きな割合は期待できない。

税法の知識のない人物が書いた気軽なネットの書き込みや本を読んで、安易に確定申告書や領収書を提出して税金を取り戻したつもりでいると、後々、とんでもないことになる。

さらに、副業が所得税法上の「事業所得」として認められるのかという問題点もある。少しややこしいが、重要な点なので説明したい。

所得税法上、所得の10種類の区分のうち、他の所得と赤字を相殺(損益通算)できるものは、事業所得、不動所所得、山林所得、譲渡所得の4種類に限られる。つまり、副業が趣味の雑所得と判断されてしまえば、給与所得との損益通算が許されないことになる。

では、副業が「事業」と認められる境界線はどこにあるのか。

所得税法では、事業所得の「事業」について直接定めた規定は存在しない。しかし、昭和56年の最高裁判例の「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務」という解釈が一般には使われている。

もし、雑所得的な規模の売り上げにもかかわらず、事業所得として赤字を給与所得と相殺していたとしよう。税務調査で雑所得と認定されれば、修正申告に追い込まれることになる。事業所得として申告した自分の副業に、本当に客観的な社会的地位があるのか、一度、冷静になって考えてみてほしい。

最後に、売り上げがないにもかかわらず、架空計上して事業があるという仮装は絶対にやめた方がいい。不正が発覚した場合、厳しいペナルティーが待っている。

重加算税や還付金に対する利子相当額の延滞税はもちろん徴収される。だが、こうした追徴金で済めばまだマシだ。

事業が存在すると偽装して不正に還付すれば、修正申告を迫られるだけではなく、詐欺罪が適用される可能性もあるのだ。脱税指南をする男の甘い言葉に誘われたとしても、詐欺の実行犯に問われるのはあなたになってしまうのだ。

脱税は過去7年にさかのぼって調査できる。虚偽の確定申告書を提出した瞬間から、7年間も税務調査の影に怯えて暮らさなければならないのだ。

確定申告の受け付けが18日から始まった。副業の申告を考えているサラリーマンは、「国税の最後の砦」が動いたという事実を今一度考えてほしい。

 

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